筆者:公認会計士 高橋 雄一
『決算早期化』という言葉が普及したのは今から20 年ほど前のことで、2000 年前後に東京証券取引所が決算の発表を決算期末後45 日以内に行うことが望ましいとしたことがきっかけでした。このような背景を受けて、多くの上場企業は決算早期化プロジェクトを立ち上げ、決算期末後45 日以内の決算発表を目指しての早期化の試みが進められました。その結果、2021 年3 月期における上場企業全体の決算発表所要日数は40.6 日となっており(日本取引所グループホームページより)、東京証券取引所の早期化要請の水準を超えたスケジュールで決算発表を行っています。
企業経営自身の目線を前提に置くと、決算早期化に取り組む最大の目的は「タイムリーな経営判断・分析」です。企業を取り巻く環境は、過去と比べて目まぐるしく変化しています。例えば、
といった経営環境の変化が挙げられます。企業はこれらの変化に対して即座に対応ができないと、競争力は弱くなるばかりです。
経営環境の変化に柔軟に対応するには、決算を早く締め、財務状況を分析し、即座に対策を打つことが求められます。このようなことから、決算早期化は制度対応的な側面から、月次決算や日次決算といった経営管理的な側面へと変化しています。『決算早期化』は、今の時代を生き抜くためには必要不可欠な対策となっています。
上述したとおり、決算早期化の最大の目的は「タイムリーな経営判断・分析」ですが、この目的を少し細分化すると以下のメリットに分解することができます。
決算早期化の実現にかかる時間・コストとそれによって享受できるメリットを比較衡量すると、決算早期化への対策は、現状決算が遅延している企業にとって費用対効果の大きな投資といえると思われます。
決算早期化を実現するうえでの阻害要因の代表的な例は以下のとおりです。
これらの阻害要因を即座に解決する『特効薬』は実のところありません。1 つ1 つの要因を着実に潰しこむことが、決算早期化の一番の近道であるといえます。
個別決算の早期化阻害要因は先ほど紹介したとおりです。ここでは対策についてみていきたいと思います。
決算の早期化については、RPA などのIT ツールを利用することで劇的に改善されることが多くありますので、どのようなIT ツールが利用できるかご紹介します。
業務標準化の目的は「誰でも同じ高品質の業務を遂行できる」ということです。
代表的な施策として、「マニュアルの整備」があります。ただし、ここで注意すべきことは、マニュアルの整備に合わせて現在現場で実施されている業務プロセスを可視化し、そのプロセスのどこに無駄やリスク(例:会計システムの入力を誤るリスクや会社資産の流出に代表される不正リスク)があるのかを、早期化を実施するプロジェクトメンバーで共有し、徹底して無駄とリスクの排除を実践する必要がある点です。
つまり、不適当な業務プロセスを単純にマニュアル化しただけでは、いかにそれが「誰でも同じ業務を遂行できる」ツールになり得たとしても「誰でも同じ“高品質”の業務を遂行できる」ことにはならないからです。ある業務を現に担当している担当者でなくても当該業務をこなすことが可能になり、繁忙期には他の社員に担当(追加的なサポート・補助)させるといった措置が可能になります。
業務平準化の目的は「業務負荷を一定に保つ」ということです。
決算業務と一括りで表現すると決算期に実施しなければならない業務と思われますが、実はこの決算業務の中にも前倒しで作業が進められるものも存在するわけです。一つ一つの決算業務のたな卸しを行い、作業時期を見直すことで決算期の業務負荷を下げることができます。決算業務の前倒しを検討する際のチェックポイントは下記のとおりです。
このように、個別決算業務の早期化対策は、比較的に簡単に始められるものが多いといえます。上記3 つの課題を基に自社の状況を分析し、対策を検討されてはいかがでしょうか。
また、決算早期化対策は「子会社が多数ある」「海外子会社がある」など「連結」ベースでも検討する余地があります。この点についてはまたの機会にご紹介いたします。
経営管理 プラクティスグループ(business-admin@aiwa-tax.or.jp)