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ニュースレター2022.9.5

【ウェルスマネジメント】ファミリービジネスと創業家

AIWA NEWS LETTER

筆者:FBAAフェロー 野原 邦亮

はじめに

「ファミリービジネス」という言葉には、明確な定義は存在しませんが、日本では「同族企業」や「同族経営」という意味で使われることが多いようであり、一般的には、創業家(ファミリー)出身者が経営者であるか、創業家が主要株主である会社のことを指すとされています。「ファミリービジネス白書2022 年度版」(後藤俊夫監修/白桃書房)によると、日本の上場企業の49.3%をファミリービジネスが占め、非上場企業も含めると日本の全企業数の9 割以上をファミリービジネスが占めるとされています。
そうした中、近年ではファミリー企業の業績がそうでない企業(一般企業)の業績よりも良いという結果が統計分析などで明らかになるにつれて、日本でもファミリービジネスに対する注目が高まっています。
本稿では、ファミリービジネスと創業家との関係に着目し、ファミリービジネスにおける創業家の役割や課題、そしてその本質について考えてみたいと思います。

日本は⾧寿企業大国

日本は創業100 年以上となる⾧寿企業数が世界で最も多い国と言われています。東京商工リサーチの調査によると、2022 年に創業100 年以上となる老舗企業は全国で4 万769 社を数え、年々その数は増えています。こうした⾧寿企業に見られる主な特徴としては、

  • 時代が変わろうとも色あせない経営理念や創業者の精神を大切に受け継いでいる
  • 創業家一族や創業家出身経営者の事業継続への強い信念がある
  • ⾧期的な視点での経営がされている
  • 人を育てる、人を大切にする視点が重要視されている
  • 顧客や取引先、地域社会との良好な関係を重視している
  • 環境変化への柔軟な対応がされている


といったことが挙げられますが、こうした特徴(優位性)は、一般企業よりもファミリー企業の方が優位性として発揮しやすいという見方があります。ではなぜ、一般企業よりもファミリー企業の方がこうした優位性を発揮しやすいのでしょうか?それについては、そもそものファミリービジネスの構造上の特徴を理解することで必要です。

一般企業とファミリービジネスとの構造的な違い

一般企業とファミリービジネスのシステムの違いについてみていきたいと思います。
「⾧く繁栄する同族企業の条件」(西川盛朗著/日本経営合理化協会出版局)では、一般企業はビジネス(経営者)と所有権(株主)の2 要素であるのに対し、ファミリービジネスはビジネス(経営者)、所有権(株主)に加え、ファミリー(創業家)の3 要素が重なり合う三位一体経営であるとされています。

(出所)西川盛朗著「長く繁栄する同族企業の条件」


ファミリービジネスは、ファミリー(創業家)が存在することで、ファミリービジネスならではの「良さ」や「強み」を発揮しやすくなる可能性を秘めています。優れたファミリービジネスは、短期的な利益の追求よりも、永続的な繁栄を目指して、⾧期的・継続的な視点で経営にあたっていると言われています。つまり、経営者や株主、取引先・顧客、従業員、地域社会、そして創業家のすべてのステークホルダーがWin-Win の関係になるような経営を⾧期的視野に立って行っているということが特徴です。すべてのステークホルダー価値を向上していこうとする経営は、コーポレートガバナンス改革やESG の文脈でも重要視されていますが、優れたファミリービジネスはそうした経営を以前より実践してきたと言えます。
優れたファミリービジネスが、創業の精神や経営理念に基づき、⾧期的視野に立った経営を実践し続けていくのには、創業家がどのような役割を果たしているのかを考えることが重要です。「⾧く繁栄する同族企業の条件」(西川盛朗著/日本経営合理化協会出版局)では、ファミリービジネスの3 要素の役割を次のように定義しています。

  • 創業家:理念、価値観を守り抜く役割
  • 株主:投資家として⾧期的なリターンを確保するために絶えない事業承継を求める役割
  • 経営者:変化し続ける時代とマーケットに適応する役割


ファミリー(創業家)がシステムに加わることよって、経営者やビジネス環境が変わろうとも、創業の精神や経営理念に関して世代を超えて守り抜く役割を創業家が果たしてくれることが期待されます。これは一般企業にはない機能であり、ファミリービジネスならではの構造的な特徴と言えます。
勿論、すべての創業家がこうした役割や機能を主体的に発揮してくれるものではありません。そのためには、自社の状況に応じて、何らかの目に見える仕組みを設けていくことも検討すべきと考えます。仕組みを考えるにあたっての主なポイントは、創業家として共通の目的を持つこと、そして創業家として円滑なコミュニケーションを図っていくという点にあります。なぜそうした仕組みが必要となっているかと言えば、そこには日本の家族やイエのあり方が大きく変化してきているという構造的な要因が挙げられます。
創業家のメンバーが増えるにつれて、よほど意識しない限り、創業家一族全員が定期的に顔を合わせる機会は年々減少していくものと考えられます。そうした中で、家族や親族ならではの絶妙な距離感を保ち、結束して家業の理念や価値観を守り抜くためには、創業家としての大切なビジョンや価値観を共有し、お互いの信頼関係を維持する仕組みが必要となってきています。例えば、日本では三井家や住友家、三菱財閥を創設した岩崎家などが、家訓や家憲等によって家族が守るべきビジョンや価値観、ルールを定めていたことは有名ですが、こうした仕組みは、家と家業の永続的な繁栄において有効な仕組みであったと言えます。

ファミリービジネスの競争力の源泉

成功するファミリービジネスには、競争力の源泉となる「何か」を持っているわけですが、ファミリーが持つ競争優位性の要素のことをファミリー性(ファミリーネス)と呼んでいます。「同族経営はなぜ3 代で潰れるのか?」(武井一喜著/クロスメディア・パブリッシング)では、ファミリー性は、創業の精神やファミリーの価値観、文化を根源として、⾧い年月を通じてビジネスの文化や価値観、いわば暗黙知として根づいているもので、一朝一夕に生まれるものではなく、だからこそ、他社に真似ができない、その企業の特有の資源として培われ、競争力の源泉となるものと述べています。
そして、ファミリー性を発揮するためには、ビジネスに関与しないファミリーも含め、それぞれの役割において主体的にビジネスを支えていくという状態を維持するための仕組みを作っておくことが肝要であり、近年はそうした取組みにも注目が高まっています。その仕組みとして、最も重要なものの一つは、ファミリーが定期的に話し合う場を設けるということです。そこにおいては、ファミリーメンバーがファミリービジネスに対する興味・関心を高め、誇りや責任感を醸成していくことは勿論のこと、ファミリーメンバー同士の相互理解を深め、ファミリーやビジネスにおける問題・課題を主体的に解決していく力を育んでいくことが大切となります。
家訓や家憲による家と家業の永続的な繁栄のための仕組み作りと合わせて、ファミリーが定期的に話し合う場を設けるという仕組み作りも重要となります。

ファミリービジネスの難しさ

一方、ファミリービジネスにはファミリー(創業家)という要素が加わることによって、関与する人が多くなりシステムそのものが複雑になるという難しさや課題もあります。
例えば、ファミリー(創業家)とビジネス(経営者)では互いの利害が対立することが少なくありません。
ファミリーにとっては平等や愛情が大切な世界となりますが、ビジネスは成果や能力主義が基本の世界であり、この2 つは全く相反する価値観で動いているにも関わらず、実際には両者は重なり合っているのが特徴です。つまり、この両者が重なり合う部分は、対立が生じやすい境界であると言えます。特に、ファミリーの関係は一生涯続くだけに、ファミリーの対立や確執は問題が複雑化しやすく、修復には多大な時間と労力を費やすことになりかねません。
さらに言えば、ファミリービジネスは、ファミリーとビジネスだけではなく、ファミリーと株主、ビジネスと株主という3つの境界で利害が対立しやすい構図であり、一般企業と比べて、システムを上手く機能させるためには非常に手間が掛かると言われています。構造的に重なり合う境界が多く、また、ファミリー(創業家)であるが故の感情的な対立・確執もファミリービジネスの難しさの要因と言えます。

アセスメント

上述のファミリービジネスの難しさや課題を克服し、ファミリービジネスの三位一体経営を実現していくためにはファミリー(創業家)、所有権(株主)、ビジネス(経営者)の3 つの機能の課題に対処していくことが求められます。その際、特に重要となるのが3 つの機能が緊密に連携しながら全体として統一した働きをするよう、ファミリービジネスシステム全体を健全に機能させるよう対処していくことにあります。具体的な対応方法の一例として、ビジネスの事業計画や経営承継、オーナーシップの所有構造のあり方や承継、そしてファミリーの教育・育成や財産承継等のそれぞれの計画をバラバラに考えるのではなく、20 年、30 年先のビジョンを描き、そのビジョンとそれぞれの計画とを一致させるよう考えていくプロセスがあります。
そうしたプロセスを実践する上では、まずはアセスメントを実施していくことが第一歩となります。アセスメントのプロセスを通じて、自社のファミリービジネスシステムにどのような経営課題があるのか、さらには将来どのような課題に直面するリスクを抱えているのかを明らかにしていきます。アセスメントの方法としては、インタビューやサーベイ(アンケート)、分析ツール、個人プロファイル分析などを用いて行っていくことが一般的です。アセスメントプロセスでは、様々な視点からの質問や問いかけを行うことによって、ビジネスとファミリーの関係や役割、存在意義などについて、それぞれのメンバーに内省と気づきを促すことも大きな効果として期待されています。

永続への取組み

ファミリービジネスの永続性を高めていく上で、特にファミリー(創業家)に関する代表的な課題としては次のような点が挙げられます。

  • 創業家としての価値観やビジョン、ルールの言語化と浸透
  • 円滑なコミュニケーションの仕組み
  • ファミリーと各メンバーの役割の明確化や再定義
  • ファミリーの報酬や財産承継に関する方針やルール作り
  • 教育


ファミリー(創業家)に関する主要課題だけを見ても、対処していくためにはかなりの時間と労力がかかり、中⾧期的な時間軸で取り組んでいく必要があることがわかります。とりわけ日本では、ファミリーの教育が大きな課題とも言われています。ファミリーの教育に関してまずもって重要な点は、自社のファミリービジネスに関してファミリー全員がきちんと理解し、興味を持ち、そして誇りを持てるような接点や仕組みが必要であると考えます。また、ファミリービジネスシステム全体を見据えると、ファミリーの問題に加え、オーナーシップやビジネスの問題・課題へも統合的に対処していくことが必要となってくるため、経営者(創業者)一人で対応していくことには物理的にも限界があると言えます。そのため、ファミリービジネスの永続に向け、持続可能なシステムへと深化させていくためには、創業家一族や非ファミリー幹部などの主要なメンバーを巻き込み、主要な当事者の参画意識を高め、適切な権限移譲と役割分担を行いながら取組んでいくことが重要となります。
また、経営者にとっては、こうした取組みを行うことが、より本質的な意味で事業承継対策につながるという視点を持つことも大切です。事業承継対策はどうしても自社株の承継という側面が注目されがちですが、そこには、事業承継は世代交代というイベントへの対策という考えが前提にあるからだと思われます。本質は、「承継」ではなく「永続」への問題への対処であり、「永続」に向けてのプロセスとして捉えるべきであると考えます。つまり、世代交代という「点」で捉えるのではなく、永続に向けてファミリービジネスシステムをより健全に機能させていくという立体的な「プロセス」として捉えていく視点が重要です。こうしたプロセスを通じて、ビジネスとファミリーのレジリエンスを高め、いかなる環境変化にも柔軟に対応することができる基盤を構築していくことが、VUCA の時代の事業承継対策としては必要ではないでしょうか。

最後に

ファミリービジネスと創業家の関係について述べてきましたが、なぜファミリー(創業家)の問題・課題にまで踏み込んで取組んでいく必要があるかと言えば、ファミリービジネスには、ならではの強さや優位性があり、その強さを最大限に発揮していく上で、ファミリー(創業家)の果たす役割が極めて重要であるからに他なりません。
日本ではファミリーの問題に関して第三者に相談することを躊躇うことが多く、大半のファミリーでは、お家騒動が勃発し、ビジネスへの影響が顕在化しない限り、対応を先送りするケースが多いのも事実です。
他方、欧米ではファミリービジネスに関する研究は1980 年代に芽生え、2000 年代には経営学の一部として確立されてきています。欧米の優良なファミリービジネスでは100 年、200 年先も存続するための仕組みを構築することに非常に熱心であり、ファミリーの対立や確執を生まないようにするため、ファミリーの理念や行動規範を定める「ファミリー憲章」の策定やファミリーが定期的に集まる「ファミリー評議会」といった仕組みを設ける動きが増えています。
日本のファミリービジネスも、ファミリーの内紛や対立が起こってから対処するのではなく、転ばぬ先の杖として、今後はファミリーの統治の仕組み(ファミリーガバナンス)を検討していく企業も増えてくるのではないかと思われます。
企業を永続させるために、一歩先んじた事業承継対策として、財産承継に偏重しないファミリー性(ファミリーネス)を意識した取組みも益々重要になってくるのではないでしょうか。

ウェルスマネジメント プラクティスグループ(wealth-management@aiwa-tax.or.jp

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