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コラム2024.7.1

【コラム】外形標準課税制度の見直し ~減資への対応について~

筆者:田中 広平

はじめに

令和6 年度税制改正法案が3月28 日に成立し、同月30日に官報により公布されました。所得税・住民税の定額減税や賃上げ促進税制の強化、交際費等の損金不算入制度の見直しなど様々な分野で改正が入りましたが、今回は外形標準課税制度の見直しにスポットを当てて解説します。

改正の背景

外形標準課税制度は、①税負担の公平性の確保、②応益課税としての税の性格の明確化、③地方分権を支える基幹税の安定化、④経済の活性化、経済構造改革の促進を目的に平成15 年に創設され、平成27 年及び平成28 年の改正により、広く負担を分かち合い、企業の稼ぐ力を高める法人税改革の一環として、所得を課税標準とするもの(所得基準)から給与額や資本金などを課税標準とするもの(外形基準)に課税のウェイトを移すように、所得割の税率を引下げる改正が行われてきました。

【外形標準課税の税率等の変遷】


外形標準課税制度は、企業規模が一定以上の大規模法人(平成15 年の制度創設時より、期末資本金の額が1 億円を超える法人)が対象となりますが、本来、外形標準課税の対象となるような大規模法人が、株主に対して資金の払い戻しを伴わない形式的な減資(資本金から資本剰余金に項目間で振り替える減資)を実施することにより、適用対象法人から逃れるようなケースが散見されていました。そしてこのような動きは上場会社にまで及び、これらが新聞報道等されてきたことは記憶に新しいところです。このような外形標準課税対象法人の減少を踏まえ、本改正により適用対象法人の見直しが行われました。

出典:総務省「外形標準課税に関する状況」

改正内容


改正前は、当該事業年度終了の日における資本金の額が1 億円を超える法人が適用対象法人とされていました。改正後は、従前の対象法人の他に、「大企業による減資への対応」と「100%子会社への対応」による法人が新たに適用対象法人に追加されることとなりました。

【改正後の適用対象法人】

減資への対応

当該事業年度の前事業年度において外形標準課税の対象であった法人について、減資により期末資本金の額を1 億円以下にした場合であっても、資本金と資本剰余金の合計額が10 億円を超える法人は、令和7 年4 月1日以後開始事業年度において新たに外形標準課税の対象となります。
ただし、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人であっても公布日(令和6 年3 月30 日)の前日以前に資本金の額を1 億円以下に減資しており、公布日以後最初に到来する事業年度及びその事業年度の翌事業年度以降のそれぞれの終了の日における資本金の額が1億円以下である場合は、令和7 年4 月1日以後開始事業年度において、資本金と資本剰余金の合計額が10 億円を超える場合であっても外形標準課税の対象とはなりません。

⑴ 前事業年度において外形標準課税対象法人が公布日以後に減資をした場合



⑵ 前事業年度において外形標準課税対象法人が公布日の前日以前に減資をした(していた)場合



⑶ 前事業年度において外形標準課税の対象でなかった法人が、公布日以後に資本金1億円超(6 億円)に増資をした後、増資をした事業年度終了の日までに資本金を1億円まで減資をした場合


100%子法人等への対応

資本金と資本剰余金の合計額が50 億円を超える法人(資本金1 億円以下の中小企業等を除く)又は相互会社・外国相互会社の100%子法人等のうち、当該事業年度終了の日における資本金の額が1 億円以下であっても、資本金と資本剰余金の合計額が2 億円を超える子法人等は、令和8 年4 月1日以後開始事業年度において新たに外形標準課税の対象となります。
この場合における2 億円の判定については、公布日以後に当該100%子法人等がその100%親法人に対して資本剰余金からの配当を実施した場合には、当該配当により減少した資本剰余金の額を加算した金額で行います。

⑴ 新たに外形標準課税の対象となるケース①
⇒資本金と資本剰余金の合計額が50 億円を超える親法人に100%支配されている子法人等で、子法人等の資本金と資本剰余金の合計額が2 億円を超える場合


⑶ 新たに外形標準課税の対象となるケース②
⇒資本金と資本剰余金の合計額が50 億円を超える親法人に100%支配されている子法人等で、子法人等の資本金と資本剰余金の合計額が2 億円を超える法人と超えない法人のいずれもある場合(間接支配の場合)



⑵外形標準課税の対象外となるケース
⇒資本金と資本剰余金の合計額が50 億円を超える親法人(外形適用対象外法人)に100%支配されている子法人等で、子法人の資本金(期末資本金は1 億円以下)と資本剰余金の合計額が2 億円を超える場合


なお、当該追加措置により新たに外形標準課税の対象となった法人については、改正前の方法により計算した税額を超えることとなる額について、次のような負担軽減の経過措置が設けられています。
A) 令和8 年4 月1 日から令和9 年3 月31 日までの間に開始する事業年度については、従来の方法で計算した税額を超える額の2/3 を減額
B) 令和9 年4 月1 日から令和10 年3 月31 日までの間に開始する事業年度については、従来の方法で計算した税額を超える額の1/3 を減額

特別事業再編における配慮措置

上記5.の規定の適用において、産業競争力強化法に規定する特別事業再編計画の認定を受けた認定特別事業再編事業者である法人が、当該認定に係る特別事業再編計画に従って行う特別事業再編のための措置として100%子法人等の株式を取得等し、100%支配関係が継続している場合(一定の場合を除く)における100%子法人等については、100%親法人による取得等の日を含む事業年度から5 年を経過する日を含む事業年度までの各事業年度において、外形標準課税の対象外となります。

おわりに

今回は令和6年度税制改正のうち、外形標準課税に絞って解説を行いました。これまで形式的な減資による外形標準外しを実施してきた法人は少なくないと思われ、直近で減資をした法人については、改正による思わぬ論点の見落としがないか、今一度確認をされることを推奨します。また、新たに外形標準課税の適用対象法人となる範囲についても、その類型により、令和7 年4月1日以後開始事業年度と令和8年4月1日以後開始事業年度で段階的に変更となるため注意が必要です。
もっとも、改正により新たに外形標準課税の対象となった法人についても、もともと多額の所得が発生しており、付加価値割や資本割の課税標準額が比較的小さいケースであれば、外形標準課税の適用により、むしろ全体の納税額が減少するケースもあり得るため、改正による影響額について事前に検討しておくことが望ましいといえます。

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