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ニュースレター2025.1.8

【審理部】2025年度税制改正大綱 ~まずは概要把握を目的に~

AIWA NEWS LETTER

筆者:税理士 尾崎 真司

はじめに

2024 年12 月20 日、政府与党は2025 年度税制改正大綱を公表し、同月27 日に閣議決定をしました。
2025 年度税制改正では、「賃上げと投資が牽引する成⾧型経済」への移行に対応し、またそれを更に発展させていくための税制改正を最重点事項としたうえで、具体的には、「物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除の控除額及び給与所得控除の最低保障額の引上げ並びに大学生年代の子等に係る新たな控除の創設を行う。老後に向けた資産形成を促進する観点から、確定拠出年金(企業型DC 及びiDeCo)の拠出限度額等を引き上げる。成⾧意欲の高い中小企業の設備投資を促進し地域経済に好循環を生み出すために、中小企業経営強化税制を拡充する。国際環境の変化等に対応するため、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置、グローバル・ミニマム課税の法制化、外国人旅行者向け免税制度の見直し等を行う。」としています。
本ニュースレターでは、詳細な改正内容の確認は今後に譲り、まずは主要な改正項目について簡潔にお伝えします。なお、紙面の都合上、改正前の制度内容については、必要に応じて簡記にとどめておりますのでご了承ください。

法人課税関係

(1) 中小企業者等の法人税の軽減税率の特例の延⾧等

  • 中小企業者等の法人税率について、年800 万円以下の所得金額に対する税率は、19%(本則税率)から15%(特例税率)に軽減されているところ、資金繰り負担を緩和し、財務基盤を強化するため、その適用期限が2年間延⾧(2027 年3 月31 日までに開始する事業年度に適用)されます。
  • ただし、所得の金額が年10 億円を超える事業年度については、上記①の特例税率は15%から17%に引き上げられます。なお、適用除外事業者(前3 年間の平均所得金額が15 億円超の中小企業)については、改正前と変わらず本則税率19%の適用となります。
  • また、グループ通算制度の適用を受けている法人については、特例税率の適用を受けることはできず、本則税率19%の適用となります。

(2) 中小企業経営強化税制の拡充等

  • 中小企業の成⾧を後押しし、中堅企業への成⾧ポテンシャルが高い売上高が100 億円を超える中小企業の創出を推進するため、中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は特別控除制度について、次の措置を講じたうえで、適用期限が2 年間延⾧(2027 年3 月31 日までに取得等し事業供用した場合に適用)されます。
  • 売上高100 億円超の達成に向けたロードマップ作成等を要件に、工場のラインや店舗等の生産性向上に係る設備導入に伴う建物が対象設備に追加されます。
  • 建物を新増設した際、その年度末の雇用者給与支給総額が前年度末と比較して2.5%以上増加した場合には、特別償却15%又は税額控除1%、5.0%以上増加した場合には、特別償却25%又は税額控除2%が適用されます。
  • 現行措置について、C 類型(デジタル化設備)は廃止、A 類型(生産性向上設備)及びB 類型(収益力強化設備)は指標の見直しが行われます。

(3) 資源循環投資促進税制の創設

青色申告書を提出する法人で資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律の高度再資源化事業計画又は高度分離・回収事業計画の認定を受けたものが、同法の施行の日から2028 年3月31 日までの間に、再資源化事業等高度化設備の取得等をして、その法人の高度再資源化事業又は高度分離・回収事業の用に供した場合には、その取得価額(合計20 億円を限度)の35%の特別償却ができることとされます。
なお、「再資源化事業等高度化設備」とは、認定高度再資源化事業計画又は認定高度分離・回収事業計画に記載された廃棄物処理施設を構成する機械装置及び器具備品のうち、再資源化事業等の高度化に著しく資する設備として環境大臣が財務大臣と協議して指定するもので、一定の規模以上(一台又は一基あたりの取得価額が、機械装置2,000 万円、器具備品200 万円以上)のものをいいます。
太陽光パネルやペットボトルといった資源の有効活用に弾みをつけ、業界全体の技術の底上げを図ることが目的とされているようです。

(4) 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の延⾧等

企業版ふるさと納税とは、国が認定した地方公共団体の地方創生事業に対し企業が寄附を行った場合に、最大で寄附額の9 割が法人関係税から税額控除される制度です。
この企業版ふるさと納税制度について、寄附活用事業を実施した認定地方公共団体が、寄附活用事業の完了の時及び各会計年度終了の時に、地方自治体が寄附を行った企業に対して便宜を図るなど不適切事案も発生していることを踏まえ、寄附活用事業に係る執行上のチェック機能の強化等を目的として、寄附活用事業を適切に実施していることを確認した書面を内閣総理大臣に提出しなければならないこととする等の措置が講じられることを前提に、適用期限が3年間延⾧(2028 年3 月31 日までに支出したものに適用)されます。

(5) リース会計基準の変更に伴う措置

  • 法人が各事業年度にオペレーティング・リース取引によりその取引の目的となる資産の賃借を行った場合において、その取引に係る契約に基づきその法人が支払う金額があるときは、その金額のうち債務の確定した部分の金額は、その確定した日の属する事業年度に損金算入することとされます。
    この改正内容は、2024 年9 月13 日に企業会計基準委員会が新リース会計基準(2027 年4 月1 日以後開始事業年度の期首から強制適用、2025 年4 月1 日以後開始事業年度の期首から早期適用可)を公表したことに伴うものであり、リース取引の税務上の取り扱いに大きな変更はありません。
    他方で、税務上の取り扱いに変更がないことにより、これまで原則として税会一致であった処理が、逆に会計上の取り扱いと差異が生じる(別表調整が必要になる)ことになります。新リース会計基準を適用する企業の多くに影響がある点に留意が必要です。
  • リース譲渡に係る収益及び費用の帰属事業年度の特例が廃止されます(消費税についても同様)。改正後は、リース資産の引渡し時に一括で譲渡損益を認識することになりますが、一定の経過措置が設けられます。
  • 事業税付加価値割の課税標準の算定について、法人が各事業年度にオペレーティング・リース取引によりその取引の目的となる土地又は家屋の賃借を行いその取引に係る対価を支払ったときは、その金額のうち法人税の所得の計算上損金の額に算入される部分の金額は、その事業年度の支払賃借料とされます。上記①の改正内容と平仄を合わせるものですが、多くの企業に影響があるため注意が必要です。

個人課税関係

(1) 物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整への対応(103 万円の壁)

  • 所得税の基礎控除について、合計所得金額が2,350 万円以下である個人の控除額を10 万円引き上げ、58 万円とされます。
  • 給与所得控除の最低保障額について、10 万円引き上げ、65 万円とされます。
  • 居住者が生計を一にする年齢19 歳以上23 歳未満の親族等(その居住者の配偶者及び青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が123 万円以下であるものに限る)で控除対象扶養親族に該当しないものを有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額等から次のとおりの控除額が控除されます。
    すなわち、親族等の合計所得金額が85 万円までは、親等が特定扶養控除と同額(63 万円)の所得控除を受けられ、親族等の合計所得金額が85 万円を超えた場合でも親等が受けられる控除の額が段階的に逓減し、合計所得金額が123 万円を超えると消失する仕組みとされます(特定親族特別控除(仮称))。

  • 上記①から③の改正は、2025 年分の所得税(2026 年分の住民税)から適用されます。

(2) エンジェル税制の拡充

  • スタートアップに対する個人からの資金供給を促す観点から、株式譲渡益が発生した年内にスタートアップへの投資を行う必要がある再投資期間の要件について、株式譲渡益が発生した年分の確定申告時の手続き等を前提に、株式譲渡益が発生した翌年末(最大2年間)まで延⾧することとされます。すなわち、譲渡益発生年に遡って投資金額を譲渡益から控除する繰戻し還付制度が設けられます。
  • エンジェル税制により株式を払込みにより取得した翌年中に当該株式の譲渡をした場合には、当該株式の取得価額は、プレシード・シート特例での20 億円の非課税措置は適用されず、エンジェル税制の適用を受けた控除済額を当該株式の取得費から控除して計算を行うことになります。
  • 上記①及び②の改正は、2026 年1 月1 日以後の特定株式の取得について適用されます。

(3) 確定拠出年金(企業型DC 及びiDeCo)の拠出限度額等の引上げ

確定拠出年金法等の改正を前提に、企業型確定拠出年金(企業型DC)・個人型確定拠出年金(iDeCo)等の拠出限度額の引上げやiDeCo の加入可能年齢の引上げ等の見直しが行われた後も、現行の税制上の措置を適用することとされます。拠出限度額の引上げ額は下記のとおりです。

(出所:厚生労働省「令和7年度 税制改正の概要(厚生労働省関係)」)

その他の改正項目

(1) グローバル・ミニマム課税への対応

グローバル・ミニマム課税について、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)の法制化が行われます。適用開始時期は、2026 年4 月1 日以後に開始する対象会計年度からとされます。あわせて、OECD により発出されたガイダンスの内容等を踏まえ、制度の明確化等の観点から所要の見直しが行われます。

(出所:経済産業省「令和7年度(2025 年度) 経済産業関係 税制改正について」)

(2) 外国子会社合算税制の見直し

  • 内国法人に係る外国関係会社の各事業年度に係る課税対象金額等の益金算入時期が、「外国関係会社の各事業年度終了の日の翌日から4月(改正前:2 月)を経過する日を含むその内国法人の事業年度」に見直されます。
  • 申告書に添付又は保存をすることとされている外国関係会社に関する書類の範囲から、「株主資本等変動計算書及び損益金の処分に関する計算書」及び「貸借対照表及び損益計算書に係る勘定科目内訳明細書」が除外されます。
  • 上記①及び②の改正は、内国法人の2025 年4月1日以後に開始する事業年度に係る外国関係会社の課税対象金額等(その外国関係会社の同年2月1日以後に終了する事業年度に係るものに限る)について適用されます。
  • 内国法人の2025 年4月1日前に開始した事業年度に係る外国関係会社の課税対象金額(その外国関係会社の2024 年12 月1日から2025 年1月31 日までの間に終了する事業年度に係るものに限る。)について、その外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から4月を経過する日を含むその内国法人の同年4月1日以後に開始する事業年度において外国子会社合算税制の適用を受けることができる経過措置が講じられます。

(3) 事業承継税制における役員就任要件等の見直し

法人版事業承継税制(非上場株式等に係る贈与税の納税猶予制度)の特例措置期限までの間に同税制の最大限の活用を図る観点から、「事業承継税制が適用されるためには、株式贈与日に後継者が役員に就任後3年以上経過している必要がある」とされる役員就任期間を特例措置に限って事実上撤廃し、贈与の直前に役員に就任していればよいこととされます。なお、個人版事業承継税制(個人の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度)における事業従事要件ついても同様の改正が行われます。
上記の改正は、2025 年1 月1 日以後の贈与から適用されます。

(4) 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置(防衛特別法人税(仮称)の創設)

  • 法人税額に対し、税率4%の新たな付加税が課されます。ただし、中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500 万円を控除することとされます。
  • 上記の改正は、2026 年4 月1 日以後に開始する事業年度から適用されます。
  • 法人税に係る付加税の創設のほか、たばこ税について、課税標準の計算方法の変更及び税率の引き上げが行われます。

(5) 電子帳簿等保存制度の見直し(重加算税の適用対象の見直し)

電子取引データに関連する隠蔽・仮装行為について、重加算税の割合を10%加重する措置の対象から、国税庁⾧官が定める基準に適合する電子計算機処理システムを使用した上で、一定の要件を満たして保存が行われている電子取引データが除外されます。

おわりに

2025 年度税制改正では、個人課税関係における「103 万円の壁」に係る改正が報道等では大きく取り上げられていますが、法人における税務業務にはほとんど影響はないものと考えます。もっとも、政府与党の税制改正大綱には、「103 万円の壁」について178 万円を目指して政党間での協議を進めるなどとされており、大綱どおりの改正となるかは不透明な状況といえます。
法人課税関係では、昨年の「賃上げ促進税制の強化」や「外形標準課税対象法人の見直し」などのような目玉となる改正項目は見受けられないものの、改正に係る影響は個々の企業によって当然異なるため、まずは、「自社に影響のありそうな改正項目はあるか?」という視点で改正内容の大枠を確認し、今後公表される情報のキャッチアップに繋げていただければと思います。
なお、税制改正大綱は税制改正案の概要を示すものであり、改正の詳細は今後の法案等の公表を待つ必要があります。今後の国会の審議等により改正内容が変更される可能性もありますので、ご留意ください。

審理部 税務調査総括担当(tax-investigation@aiwa-tax.or.jp

  • 税理士/元国税審判官 尾崎 真司
  • 税理士/元国税審判官村山 昌義
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