筆者:山田 夏女
人手不足による業務効率化への対策が求められる昨今において、企業内におけるデジタル化の取組みは必須となっています。また、新型コロナウイルス感染症への対応や経済社会のデジタル化・国際化等へ対応するために、税務行政においてもデジタル化が急速に進められています。
本稿では、近年の国税庁における税務行政のデジタル化への取組みについて紹介していきます。
国税庁では、税務行政のデジタル化の指針として「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション -税務行政の将来像2023-」を公表しており、以下の3 つを柱として施策を進めています。
納税者目線を徹底し、スマートフォン、タブレット、パソコンなどの納税者が使い慣れた電子機器を使用して、手続きを簡単・便利に行うことができる環境の整備を進めていく方針としています。あらゆる税務手続きが税務署に行かずにできる社会の実現を目指しています。
AIやオンラインツール等の活用、データ分析、地方公共団体や金融機関などの関係機関への照会などのデジタル化を進めていく方針としています。データ活用によって課税・徴収業務の効率化・高度化を図り、組織としてのパフォーマンスの最大化を目指しています。
納税者に役立つデジタル関係施策の網羅的でわかりやすい周知・広報や、関係民間団体・関係省庁等との連携・協力を進めていく方針としています。国税庁として、デジタル化への積極的な取組みを実施することで、事業者の取引全体のデジタル化、会計・経理全体のデジタル化の促進を目指しています。
納税者の利便性向上に向けての取り組みのうち、主な対応を紹介します。
近年、確定申告や予定納付に係る納付書の事前送付が一部廃止となるなど、キャッシュレス納付の推進が行われています。キャッシュレス納付とは、①振替納税、②インターネットバンキング等による電子納税、③ダイレクト納付(e-Tax による口座振替)、④クレジットカード納付、⑤スマホアプリ納付の5 つが挙げられています。毎月の源泉所得税など頻繁に納付手続きを行う法人に対しては「ダイレクト納付」を、毎年所得税の確定申告を行う個人に対しては「振替納税」の利用勧奨を実施しています。
令和6 年4 月1 日以降、e-Tax による電子申告と併せてダイレクト納付を利用する意思表示を行うことで、法定納期限において予め登録した口座から自動的に引落しが行われるようになりました。従前までは、e-Tax による電子申告後に別途納付指図を行う必要があり、納付漏れを生じさせる一因にもなっていましたが、電子申告手続時に納付手続きも同時に行えるようになったことで利便性が向上しています。法定納期限当日にe-Tax による電子申告を行った場合にはその翌日に口座引落しが行われますが、この場合においても、法定納期限に納付があったものとみなされます。
なお、上記対応で納税可能な金額について、令和6年4月1日から2年間は1,000 万円が上限とされ、その後も順次引き上げていくことが予定されています。
個人の所得税確定申告については自宅からでも簡単・便利に確定申告が行える環境の整備が進められています。これまでも、確定申告時に必要な各種データの自動連携など納税者の利便性の向上に向けた様々な取組みが行われてきました。令和7 年1 月からは、所得税の申告書の作成に関するすべての画面について、スマートフォンでもより操作のしやすい画面提供がされることとなりました。さらに、e-Tax においてもスマートフォン用電子証明書を利用することで、確定申告の手続きの際にマイナンバーカードの電子証明書を読み取らなくてもe-Tax の利用が可能になりました。まずはAndroid のみの対応に限られますが、順次iOSにも拡大していく検討が進められています。
税務調査に当たっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大などを背景に、オンラインツールの積極的な活用が進められています。既に一部の大規模法人を対象に試行的にリモート調査を実施しており、Web 会議システムを用いたリモートでのヒアリング調査や、e-Tax・オンラインストレージサービスを利用した帳簿書類(データ)の受け渡しなどが検討されています。また、国、地方間のデータ連携の対象範囲拡大、金融機関等に対する預貯金等のオンライン照会の拡大も進められています。
税務手続きのデジタル化と併せて、事業者の業務のデジタル化を促す施策も進められています。
事業者が日頃行う事務処理(経済取引に関するもの、バックオフィスで処理するもの)について一貫したデジタル処理を可能とすることにより、事業者におけるヒューマンエラー等の防止による正確性の向上や、事務の効率化による生産性の向上等といったメリットが期待されます。近年では、国税庁と税理士会や関係団体等との連携協力が図られ、事業者のデジタル化への対応を促す取り組みが行われています。また、会計ソフトやAI-OCR、デジタルインボイスのほか、各種補助金等の周知・利用勧奨の情報発信も行われています。
今後も、デジタル化のメリットを訴求するリーフレット等で案内を行うほか、デジタルツールの導入事例などの動画等を作成し、国税庁ホームページでの掲載、各種説明会・研修会の実施をしていくことが予定されています。
今回は税務行政のデジタル化について紹介させていただきました。
直近では令和6 年1 月1 日施行の電子取引データの保存義務化がありました。今後もデジタル化が進むことにより、経理業務・税務申告・納税等において更に利便性が向上することが期待されます。
是非この機会に自社内の業務効率を見直し、経理業務・税務申告・納税等について、デジタル化の促進を検討してみてはいかかでしょうか。