筆者:税理士 村山 昌義
国税に関する法律に基づく処分に不服がある納税者が審査請求を行う場合、国税不服審判所に審査請求書を提出する必要があります(以下、審査請求書を提出した者を「請求人」といいます。)。国税不服審判所では、提出された審査請求書の記載事項に不備がないか否かの審査、審査請求が法律の要件(以下「本案審理要件」といいます。)を満たすか否かの審査(以下、この二つの審査を併せて「形式審査」といいます。)が行われます。
そして、この形式審査をクリアした後に、その審査請求事件について中心的に調査及び審理をする「担当審判官」の指定及び合議体(担当審判官と共にその審査請求事件を担当する参加審判官2 名を合わせた合計3 名のチーム)の編成が行われ、請求内容に対する調査及び審理が開始されます(形式審査に対して、この調査審理を実質審理又は本案審理といいます。)。一方で、形式審査をクリアできない場合には、実質審理に入ることなく却下(門前払い)となります。
本稿では、審査請求書の記載不備に対する取扱いと、本案審理要件のうち不服申立期間について解説いたします。
国税不服審判所⾧は、審査請求書の記載の不備、提出部数の不足、必要な添付書類の不備などがあった場合には、相当の期間を定めて、請求人に対し当該不備の補正を求めます(注1)。この場合の「相当の期間」とは、概ね一週間程度とされており、この期間内に請求人は補正をする必要があります。そして、相当の期間内に補正の求めに応じなかった場合には、実質審理に入ることなく却下裁決が下されます。
実際には、一週間以内に補正が間に合わなかった場合には、各請求人の個別の事情などを考慮し、追加でもう一週間程度の補正期限が別途設けられるなど柔軟な対応をしているようですが、却下裁決のリスクを考えると、当初設定された期限である一週間以内に補正に応じたいところです。もっとも、自らが処分に不服があるとして審査請求を申し立てているわけであり、形式審査が終わらなければ実質審理に入ることはできないため、速やかに対応すべきでしょう。
(注1) 不備が軽微なものであるときは、国税不服審判所⾧が職権で補正を行います。
本案審理要件として主に次に係る要件があります。
① 不服申立期間(審査請求書が不服申立期間内に提出されているか)
② 処分該当性(審査請求の対象となる「処分」があるか)(注2)
③ 不服申立適格(審査請求をすることができる者に該当するか)
④ 請求の利益(請求人に請求の利益があるか)
このうち上記①の不服申立期間とは、不服申立てができる期間という意味であり、当該期間を徒過した場合には、もやは不服申立てをすることはできません。これは、納税者の権利の救済と、行政処分の効果ないし行政上の法律関係の早期安定という二つの要請を調和する趣旨で設けらています。したがって、不服申立期間を徒過した後に提出された審査請求書については、本案審理要件を満たさないものとして却下裁決が下されます。
国税不服審判所に対する審査請求の不服申立期間は、再調査請求をせずに直接審査請求をする場合(審判所内部ではこれを「直審」と呼んでおり、以下本稿では「始審的審査請求」といいます。)と、再調査請求に係る決定を経て審査請求をする場合とで異なります。
以下、それぞれの場合の不服申立期間について解説します。
処分があったことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には、その通知を受けた日)の翌日から起算して三月を経過したとき(以下、これを「主観的不服申立期間」といいます。)とされます。ただし、処分があった日の翌日から起算して一年を経過したときは、することはできません(以下、これを「客観的不服申立期間」といいます。)。したがって、客観的不服申立期間によった場合、審査請求書の提出が処分があったことを知った日の翌日から起算して三月以内であったとしても、処分があった日の翌日から起算して一年を超えている場合は、不服申立期間を徒過しているということになります。
課税等処分に係る手続の多くは、通常、何かしらの通知がされますが、この場合の「通知を受けた」とは、当該通知が「社会通念上了知できると認められる客観的状況に置かれること(注3)」をいい、必ずしもその時に相手方が現実に了知したことを要しないとされており、実務上注意すべき点として以下のような点が挙げられます。
イ. 通常の取扱いによる郵便又は信書便による送達については、特に反証がない限り、郵便物又は信書便が通常送達されるべき時に送達があったものと推定されます。
ロ. 名宛人が一身上の都合でたまたま通知を了知しなかったとしても、特段の事情がない限り、配達を受けた日に通知を受けたものと認められます(最判昭和27 年4月25 日・民集6巻4号462 頁)。
ハ. 本人に代わって書類の受領権限を与えられている者が処分に係る通知書を受領した場合には、その者が受領したときが該当します(最判昭和28 年12 月18 日・民集7巻12 号1505 頁)。
ニ. 相手方が処分の内容を知りながら故なく書類の受領を拒み、そのために書類が受取人の手に渡らなかった場合でも、通知があったことに変わりなく、不服申立期間が進行します(名古屋高判昭和49年1月22 日・税資74 号88 頁)。
ホ. 通知書を受領した後にこれを返却した場合でも、通知があったことに変わりなく、不服申立期間が進行します(広島地判昭和25 年6月3日・税資4号59 頁)。
なお、客観的不服申立期間が適用されるのは、滞納処分に係る通知を受けていない者が不服申立てを行う場合であり、処分の相手方(名宛人)に係る不服申立期間については、主観的不服申立期間が適用されます。
再調査決定後の審査請求は、再調査決定書の謄本の送達があった日の翌日から起算して一月を経過したときは、することはできません。
この場合の「送達があった日」の考え方は、上記(1)の「通知を受けた日」と同様です。
上記(1)及び(2)が原則的な取り扱いですが、不服申立期間内に不服申立てをすることができない「正当な理由」がある場合には、当該期間は延⾧されます。
この場合の「正当な理由」とは、不服申立人の責めに帰すべからざる事由により、不服申立期間に不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情がある場合と解され、例えば、次の場合が該当します。
イ. 誤って法定の期間より⾧い期間を不服申立期間として教示した場合において、その教示された期間内に不服申立てがされたとき。
ロ. 不服申立人の責めに帰すべからざる事由により、不服申立期間内に不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情がある場合(具体的には、地震、台風、洪水、噴火などの天災に起因する場合や、火災、交通の途絶等の人為的障害に起因する場合等)。
一方で、不服申立期間を徒過した理由が、「期限を知らなかった」という法の不知にすぎない事情(新潟地判昭和38 年12 月17 日・税資37 号1192 頁)、「繁忙であった」という事情(札幌地判昭和41 年8月23 日・税資45 号180 頁)、「出張中で不在であった」との事情(東京高判昭和49 年9月26 日・税資76 号848 頁)、疾病に罹患した事実(最判昭和54 年3月9日・税資104 号625 頁)、通知書を受領した代理人の過失・怠慢(最判昭和25 年9月21 日・民集433 頁)等である場合には、「正当な理由」には該当しないとする裁判例(注4)があります。
滞納処分に関する不服申立期間については、一連の処分を「督促」、「差押え」、「公売公告から売却決定までの処分」及び「換価代金等の配当」という4つの段階に分けて、それぞれ次に掲げる期限の特例を設けています。
イ. 督促については、差押えに係る通知を受けた日(その通知がないときは、その差押えがあったことを知った日)から三月を経過した日
ロ. 不動産等の差押えについては、その公売期日等
ハ. 不動産等についての公売公告から売却決定までの処分については、換価財産の買受代金の納付の期限
ニ. 換価代金等の配当については、換価代金等の交付期日
上記の特例は、滞納処分手続きの安定を図り、換価手続きにおける買受人等の権利、利益を保護する観点から設けられたものであり、一連の滞納処分の中で先行処分の違法性が後行処分に承継されることを認めた場合(注5)であっても、なお一定の制約を設けたものといえます。特に上記ニ.の交付期日とは、税務署⾧による配当計算書の謄本を発送した日から起算して7日を経過した日をいい、非常に短い期間であるため注意が必要です。
(注2) 処分該当性については、2025 年1月配信ニュースレターを参照
(注3) これに対し、処分があったことを「知った」とは、現実に知ることをいい、抽象的に「知るべきであった」ことをいうわけではなく、特段の事情がある場合には、当該事情を考慮した場合において了知しうるべき状態に置かれることとされています。
(注4) これらの裁判例は、旧国税通則法で規定されていた「天災その他やむを得ない理由」について判示したものですが、現行の「正当な理由」についても同様であると考えます。
(注5) 徴収処分に関する不服申立てについては、先行処分である課税処分の違法性を理由として徴収処分の取り消しを求めることはできませんが、徴収処分のうち、一連の滞納処分の中では、先行処分の瑕疵は後行処分に承継されると解されています。
本稿では、審査請求書の記載に不備があった場合に求められる対応と、本案審理要件のうち不服申立期間について解説しました。
通常、不服申立てに至る前に税務調査において喧々諤々の議論が交わされ、結果に納得がいかず不服申立てをするというケースが多いですが、感情的になって処分通知の受領を拒否するということは論外であり、また、処分通知が届いてからじっくり対策を考えようというのも危険です。再調査請求にせよ、始審的審査請求にせよ、「三月」という不服申立期間は思いのほか短いものです。
税理士などの代理人を立てる場合には、諸々の手続きや期日管理は代理人が把握をしていますが、代理人を立てない場合には特に留意が必要です。補正に応じることができなかったり、不服申立期間を徒過することにより却下裁決が下されるということは、その時点で権利救済の途が閉ざされることを意味するため(注6)、くれぐれも注意したいものです(注7)。
(注6) 却下裁決の場合には、不服申立前置(不服申立てに対する行政庁の決定又は裁決を経た後でなければ訴訟を提起することができないという原則)を満たさないことになるため、訴訟に進むこともできなくなります。
(注7) 本稿の参考文献として、志場喜徳郎他共編『国税通則法精解』(大蔵財務協会、第17 版、2022 年)、中山裕嗣『租税徴収処分と不服申
立ての実務』(大蔵財務協会、第二版、2015 年)。
審理部 税務調査総括担当(tax-investigation@aiwa-tax.or.jp)