筆者:高橋
平成24年1月~3月分の裁決事例が国税不服審判所より公表されました。今回は、役員の分掌変更に伴う退職金の損金性が争点となった平成24年3月27日の裁決事例をご紹介致します。
会社は、取締役会で、役員の分掌変更に伴う退職慰労金として2億5,000万円の支給を決定し、そのうち7,500万円を当該分掌変更のあった事業年度に支給し、1億2,500万円をその翌事業年度に支給しました。
会社は、法人税の確定申告上これを当該支給をした各事業年度の損金の額に算入していましたが、当該分掌変更の翌事業年度に支給された金員1億2,500万円は損金の額に算入できる退職給与に当たるのか又は損金の額に算入されない役員給与に当たるのかが争われた事案です。
株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度が原則的な損金算入時期となりますが、資金繰りの問題でその支払いが大幅に遅れる場合などには、退職給与を実際に支払った日の属する事業年度を損金算入時期とすることも認められています。
役員の分掌変更等に伴い退職給与を支給した場合には、臨時的な役員給与として損金不算入とするのが原則的な取扱いですが、その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にある場合には、退職給与として取扱うことが認められています。
退職という事実に起因して支払われるものではないため、実際の支払いが行われたものに限って退職給与とすることができるというのが原則的な考え方となりますが、合理的な理由による一時的な未払い部分についても退職給与として取扱うことに問題はありません。
ただし、長期間の分割支払いの対象となっているようなものについては、退職給与ではなく臨時的な役員給与として取扱われ損金不算入となります。
本件の役員分掌変更は、①代表取締役を辞任して非常勤取締役になったこと、②役員報酬の月額が50%以上減少していること、③実質的にも経営への関与が認められないこと、などの状況からみて、実質的に退職したと同様の事情があるものと認められました。
よって、1回目の支給額7,500万円については退職給与として損金算入することに疑義は生じませんが、2回目の支給額1億2,500万円については、分割支払いとしたことに合理的な理由があったかどうかが重要な判断要素となってきます。
分掌変更時において退職給与の全額を一括支給できる資金力がなく、翌事業年度の銀行借入れを円滑に実施することが、分割支払いの理由として会社側は主張しましたが、退職慰労金支給決定に関する株主総会議事録や取締役会議事録は存在せず、退職金を計算した書面においても、2億5,000万円から1回目支給額7,500万円を差引いた残額については、翌年以降3年以内と記載されるに留まっている状況でした。
恣意的な損金算入などの弊害を防止する必要性から、未払分については合理的な理由が求められているところ、本件の会社の処理は、決算の状況を踏まえて、退職金の支給額を決定しているとみなされました。よって、2回目の支給額1億2,500万円は退職給与としては取扱うことができず、損金算入も認められないと判断されました。
分掌変更による役員退職慰労金について、分割支払いをする際には合理的な理由が必要であることは上記で述べたとおりですが、会社法に基づいた書類の整備やその整合性も重要な判断要素となるため留意が必要です。
また本件では、法人税の損金性の問題だけではなく、所得税の所得区分も退職所得ではなく臨時的な給与である賞与とされました。このように法人税及び所得税の双方に影響を及ぼす案件については、特に慎重な検討が必要です。