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コラム2023.6.1

【コラム】令和5 年度改正を踏まえた相続税対策

筆者:佐々木 梨絵

はじめに

令和5 年度税制改正では「相続時精算課税制度における110 万円基礎控除の新設」「相続税の課税価格に加算される贈与の期間が相続開始前3 年から7 年への延⾧」が盛り込まれました。今回の改正による相続税・贈与税の対策への影響は大きく、これまでの対策を見直す必要が出てきました。今回は令和5 年度税制改正を踏まえた今後の相続税対策について紹介します。

改正内容

改正内容については1 月のニュースレターでもご紹介しましたが、ここであらためてご紹介いたします。

  • 相続時精算課税制度における110 万円基礎控除の新設
    相続時精算課税制度を選択すれば、最大2,500 万円までは贈与税は非課税になる一方で、一度選択をすれば撤回ができないため、暦年贈与の110 万円基礎控除が使えませんでした。また、この制度を利用して贈与をした財産は贈与者の相続時に相続財産としてすべて加算されます。
    今回の改正で、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除 110万円を控除できることとされました。
    なお、今回の改正による相続時精算課税贈与の基礎控除は令和6 年1 月1 日以降の贈与から適用されます。
  • 相続税の課税価格に加算される贈与の期間が相続開始前3 年から7 年への延⾧
    暦年贈与における生前贈与加算の期間が現行の3 年から7 年に延⾧になります。また、今回の改正により加算される贈与期間(4 年間)に受けた贈与については100 万円までの金額は相続財産に加算しないこととしました。

生前贈与の活用

上記2③の改正で生前贈与による相続税対策が難しくなる方向性が示されたことで、オーソドックスな暦年贈与だけでなく様々な贈与税の非課税措置や特例を組み合わせて計画的に対策していくことの重要性が増すこととなりました。ここでは、相続税対策に活用できる制度について解説します。

  • 相続時精算課税制度の贈与の活用
    令和6 年1 月1 日以降の贈与から適用される相続時精算課税制度を選択して、子供や孫へ毎年贈与をすることで節税効果が期待できます。例えば、子供と孫3 人に毎年110万円を10 年間贈与すると、110 万円×4 人×10 年間=4,400万円の財産が相続税の課税対象から外されて課税なしで承継させることができます。
  • 住宅取得資金贈与の活用
    父母や祖父母(直系尊属)からの住宅取得資金を取得した場合で一定の要件を満たす場合には、省エネ等住宅については1,000 万円、それ以外の住宅については500 万円まで贈与税が非課税になります。また、この制度を受けて贈与した資金については、相続税の生前贈与加算は行われません。ただし、受贈者の所得が2,000 万円を超える場合には適用できないなど要件がありますので確認が必要です。
  • 贈与税の配偶者控除
    贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20 年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与した場合に2,000 万円まで贈与税が非課税になります。また、贈与税の基礎控除110 万円と併用できるので合計2,110 万円まで非課税で贈与ができます。
    ただし、相続時に小規模宅地の特例が適用できなくなる可能性もありますので、相続税の試算も行った上での実行が必須となります。
  • 贈与税の非課税制度
    本来であれば、受贈者が取得したすべての財産に贈与税がかかりますが、その財産が贈与税の対象とみなすべきではない財産(非課税財産)があります。
    ・扶養義務者からの生活費や教育費(ただし、社会通念上認められる範囲の財産に限ります)
    ・公益事業を目的とする事業の用に供する財産(ただし、公益事業に関しては、その事業の用に供しなくなったときには贈与税が課されます)
    これら非課税財産を活用して計画的に相続財産を減らすことが可能となります。
  • 事業承継税制の納税猶予の活用
    企業オーナーの中には、財産の割合のほとんどが自社株式であることが少なくありません。
    その場合には事業承継税制(自社株式の納税猶予)の検討も必要です。ただし、要件を満たさなくなった場合には猶予していた贈与税、相続税を負担することになるので、⾧期的な検証が必要になります。

基礎控除の重複適用

今回新設された相続時精算課税制度における110 万円の基礎控除と暦年贈与における基礎控除110 万円は重複して適用が可能です。
例えば、相続時精算課税制度を選択した父からの110 万円贈与を受け、母から暦年課税贈与で110 万円の贈与を受けた場合には、合計220 万円が控除されます。
父が高齢で母が比較的若い場合などは、相続時精算課税制度と暦年課税贈与を組み合わせることで、相続税の節税効果が期待できます。

最後に

今回紹介した相続税対策の他にも、相続税の小規模宅地の特例や評価制度を活用した相続対策などがあります。
相続税対策は、個々の財産内容や家族構成、贈与者・受贈者の年齢などを整理して、それぞれに合った最適な相続対策を組み合わせて選択することが重要になります。

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