筆者:税理士/元国税審判官 尾崎 真司
2023 年12 月14 日、政府与党は2024 年度税制改正大綱を公表し、同月22 日に閣議決定をしました。
2024 年度税制改正では、「賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を十分に超える持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す観点から、所得税・個人住民税の定額減税の実施や、賃上げ促進税制の強化等を行う。また、資本蓄積の推進や生産性の向上により、供給力を強化するため、戦略分野国内生産促進税制やイノベーションボックス税制を創設し、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化のための措置を講ずる。加えて、グローバル化を踏まえてプラットフォーム課税の導入等を行うとともに、地域経済や中堅・中小企業の活性化等の観点から、事業承継税制の特例措置に係る計画提出期限の延⾧や外形標準課税の適用対象法人の見直し等を行う。」としています。
法人課税では、重点政策課題である「賃上げ」を達成するために、「賃上げ税制の拡充」として控除率の引き上げや中小企業に係る控除枠の繰越制度が設けられることになりました。そして、生産性向上・供給力強化に向けた国内投資の促進を目的に、新たな制度として「戦略分野国内生産促進税制の創設」や「イノベーションボックス税制の創設」が盛り込まれています。また、「交際費等の損金不算入制度の見直し」については、多くの企業にとって朗報といえる改正内容になっています。
その他、「外形標準課税制度の見直し」については、子会社等のグループ会社を含めた今後のタックスプランニングに大きく影響を及ぼす改正内容となっており、「ストックオプション税制の見直し」は、スタートアップにとって今後のインセンティブ報酬の設計や資本政策にも影響する改正内容といえるでしょう。
本ニュースレターでは、詳細な改正内容の確認は今後に譲り、まずは法人の税務業務に関連する主要な改正項目について簡潔にお伝えします。なお、紙面の都合上、改正前の制度内容については、必要に応じて簡記にとどめておりますのでご了承ください。
中小企業事業再編投資損失準備金制度について、複数回のM&Aを実施する場合において、その株式等の取得価額に90%又は100%を乗じた金額以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できる措置を加えることとされます。また、準備金の取崩しに係る据置期間は10 年間とされます。なお、現行制度はその一部を見直した上で、適用期限が3 年延⾧されます。
産業競争力強化法の改正を前提に、同法に係る認定事業適応事業者が、産業競争力基盤強化商品生産用資産(減価償却資産)の取得等をしたときは、その認定の日以後10 年以内の日を含む各事業年度において、その産業競争力基盤強化商品生産用資産により生産された産業競争力基盤強化商品のうち、その事業年度の対象期間において販売されたものの数量等に応じた金額の税額控除ができることとされます。
これは、中⾧期的な経済成⾧を牽引する戦略分野において、国として特段に戦略的な⾧期投資が必要不可欠となる投資を選定し、その投資を促すための措置であるとされています。
なお、産業競争力基盤強化商品とは、半導体、電動車、鉄鋼、基礎化学品、航空機燃料とされています。したがって、対象となる企業は限られることになります。
令和6 年4 月1 日以後に国内で自ら研究開発した知的財産権(特許権、AI関連のプログラムの著作権)について、当該知的財産権から生ずる国内への譲渡又は国内外へのライセンスによる所得のうち、最大でその所得の30%の金額について、その事業年度において損金算入できることとされます。
交際費等の損金不算入制度について、損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準を1人当たり5,000 円以下から1万円以下に引き上げることとした上で、その適用期限が3年延⾧されます。
これにより、いわゆる「経費で落とせる飲食に係る接待交際費」の金額基準が5,000 円から1 万円に増えることになります。
非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度、及び、個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、特例承継計画及び個人事業承継計画の提出期限が2 年延⾧されます。なお、適用期限は延⾧されない見込みです。
令和6年分の所得税・令和6年度分の個人住民税について、納税者及び配偶者を含めた扶養親族1人につき、所得税3万円・個人住民税1万円が控除されます。ただし、納税者の合計所得金額が1,805 万円以下である場合に限られます。
なお、給与所得者については、所得税について、令和6 年6 月1 日以後最初に支給される給与等の源泉徴収税額から特別控除の額を控除し、個人住民税については、令和6 年6 月の給与支給時には特別徴収は行わず、特別控除の額を控除した後の個人住民税の額の11 分の1 の額を、同年7 月から翌年5 月まで、それぞれ給与を支給する際毎月徴収することになります。
2024 年度税制改正では、「賃上げ促進税制の強化」「外形標準課税の適用対象法人の見直し」が比較的影響の大きい改正項目といえますが、その影響は個々の企業によって当然異なるため、まずは、「自社に影響のありそうな改正項目はあるか?」という視点で改正内容を確認し、今後公表される情報のキャッチアップに繋げていただければと思います。また、上記には記載をしていない改正項目もあるため、改正内容の大枠を確認後、次のステップとしてより詳細に改正内容を確認することをお勧めします。
なお、税制改正大綱は税制改正案の概要を示すものであり、改正の詳細は今後の法案等の公表を待つ必要があります。今後の国会の審議等により改正内容が変更される可能性もありますので、ご留意ください。
審理部 税務調査総括担当(tax-investigation@aiwa-tax.or.jp)