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ニュースレター2024.1.9

【審理部】2024 年度税制改正大綱 ~まずは法人の税務業務に関連する改正内容の概要把握を目的に~

AIWA NEWS LETTER

筆者:税理士/元国税審判官 尾崎 真司

はじめに

2023 年12 月14 日、政府与党は2024 年度税制改正大綱を公表し、同月22 日に閣議決定をしました。
2024 年度税制改正では、「賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を十分に超える持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す観点から、所得税・個人住民税の定額減税の実施や、賃上げ促進税制の強化等を行う。また、資本蓄積の推進や生産性の向上により、供給力を強化するため、戦略分野国内生産促進税制やイノベーションボックス税制を創設し、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化のための措置を講ずる。加えて、グローバル化を踏まえてプラットフォーム課税の導入等を行うとともに、地域経済や中堅・中小企業の活性化等の観点から、事業承継税制の特例措置に係る計画提出期限の延⾧や外形標準課税の適用対象法人の見直し等を行う。」としています。
法人課税では、重点政策課題である「賃上げ」を達成するために、「賃上げ税制の拡充」として控除率の引き上げや中小企業に係る控除枠の繰越制度が設けられることになりました。そして、生産性向上・供給力強化に向けた国内投資の促進を目的に、新たな制度として「戦略分野国内生産促進税制の創設」や「イノベーションボックス税制の創設」が盛り込まれています。また、「交際費等の損金不算入制度の見直し」については、多くの企業にとって朗報といえる改正内容になっています。
その他、「外形標準課税制度の見直し」については、子会社等のグループ会社を含めた今後のタックスプランニングに大きく影響を及ぼす改正内容となっており、「ストックオプション税制の見直し」は、スタートアップにとって今後のインセンティブ報酬の設計や資本政策にも影響する改正内容といえるでしょう。
本ニュースレターでは、詳細な改正内容の確認は今後に譲り、まずは法人の税務業務に関連する主要な改正項目について簡潔にお伝えします。なお、紙面の都合上、改正前の制度内容については、必要に応じて簡記にとどめておりますのでご了承ください。

法人課税関係

(1) 賃上げ促進税制の強化

  • 従来の大企業向けの措置について、税額控除率(3%以上の賃上げを行ったときは10%(改正前は15%))の上乗せ措置(賃上げ4%以上に対して5%、5%以上に対して10%、7%以上に対して15%、厚生労働省による認定制度である「プラチナくるみん」「プラチナえるぼし」の認定を受けている場合に5%加算、教育訓練費に係る5%加算)等の見直しを行った上で、その適用期限が3年延⾧されます。この結果、最大控除率が改正前の30%から改正後は35%となります。
  • 従来の大企業のうち、常時使用する従業員数が2,000 人以下の法人(ただし、その法人とその法人との間にその法人による支配関係がある法人の常時使用する従業員数が1 万人を超える法人を除く。)について、中堅企業向けの措置を新設し、4%以上の賃上げを行ったときは15%が税額控除率(10%)に加算され、控除率は25%となります。
  • 中小企業向けの措置について、厚生労働省による認定制度である「くるみん」や「えるぼし(2段目以上)」以上の認定を受けた場合に税額控除率(賃上げ1.5%以上に対して15%、2.5%以上に対して30%)に5%を加算する措置を加え、5年間の繰越控除制度を設けた上で、その適用期限が3年延⾧されます。
  • マルチステークホルダー方針(給与等の支給額の引上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項)の公表が必要な法人の範囲(改正前は、資本金10 億円以上、かつ、常時使用する従業員数が1,000 人以上の法人)に、常時使用する従業員数が2,000 人を超える法人(資本金の要件はない)が加えられます。
  • 法人事業税付加価値割における雇用者給与等支給額の対前年度増加額を付加価値額から控除する措置について、法人税の賃上げ促進税制の見直しに合わせ、適用要件等の見直しを行った上で、その適用期限が3年延⾧されます。

    賃上げ促進税制の強化では、各種上乗せ措置の拡充のほか、中小企業者については、当期の税額から控除することができなかった額(控除限度超過額)を5 年間繰り越すことができるようになったのが特徴的な改正内容であるといえます。反面、マルチステークホルダー方針の公表が必要な法人の範囲が拡大されたことから、実務的には留意を要します。

(2) 中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充

中小企業事業再編投資損失準備金制度について、複数回のM&Aを実施する場合において、その株式等の取得価額に90%又は100%を乗じた金額以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できる措置を加えることとされます。また、準備金の取崩しに係る据置期間は10 年間とされます。なお、現行制度はその一部を見直した上で、適用期限が3 年延⾧されます。

(3) 戦略分野国内生産促進税制の創設

産業競争力強化法の改正を前提に、同法に係る認定事業適応事業者が、産業競争力基盤強化商品生産用資産(減価償却資産)の取得等をしたときは、その認定の日以後10 年以内の日を含む各事業年度において、その産業競争力基盤強化商品生産用資産により生産された産業競争力基盤強化商品のうち、その事業年度の対象期間において販売されたものの数量等に応じた金額の税額控除ができることとされます。
これは、中⾧期的な経済成⾧を牽引する戦略分野において、国として特段に戦略的な⾧期投資が必要不可欠となる投資を選定し、その投資を促すための措置であるとされています。
なお、産業競争力基盤強化商品とは、半導体、電動車、鉄鋼、基礎化学品、航空機燃料とされています。したがって、対象となる企業は限られることになります。

(4) イノベーションボックス税制の創設

令和6 年4 月1 日以後に国内で自ら研究開発した知的財産権(特許権、AI関連のプログラムの著作権)について、当該知的財産権から生ずる国内への譲渡又は国内外へのライセンスによる所得のうち、最大でその所得の30%の金額について、その事業年度において損金算入できることとされます。

(5) 交際費等の損金不算入制度の見直し

交際費等の損金不算入制度について、損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準を1人当たり5,000 円以下から1万円以下に引き上げることとした上で、その適用期限が3年延⾧されます。
これにより、いわゆる「経費で落とせる飲食に係る接待交際費」の金額基準が5,000 円から1 万円に増えることになります。

(6) 外形標準課税の適用対象法人の見直し

  • 外形標準課税の対象法人について、現行基準を維持した上で、当分の間、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人であって、当該事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象とされます。
  • 資本金と資本剰余金の合計額が50 億円を超える法人等の100%子法人等のうち、資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超えるものは、外形標準課税の対象とされます。ただし、改正による影響を軽減するため、新たに本税制の対象となる子法人等については一定の軽減措置が講じされます。

    2023 年度の税制改正大綱でも「今後の検討課題」として掲げられていた事項であり、⾧らく問題視されてき事柄(大手企業の減資による外形標準課税適用の回避)に対応するための改正内容となっています。上記①の改正により「減資による対応」が出来なくなり、②により大企業グループに属する比較的規模の大きい子会社等も外形標準課税の対象になることになります。
    なお、上記①及び②ともに、改正税法の公布日(例年通りであれば2024 年3 月末頃)までに減資等を行ったときは、外形標準課税の対象法人には該当しないこととなる場合もあることから、その点も含め、個社の状況に応じてその影響額や対応策を検討する必要があるといえます。もっとも、「外形標準課税の対象になる=事業税の納税が増える(増税になる)」とは限らず、逆に事業税の納税が減ることもあり得るため、この点も踏まえて対応を検討する必要があります。

(7) プラットフォーム課税の導入

  • 国外事業者がデジタルプラットフォームを介して国内向けに行うデジタルサービスについて、国外事業者の取引高が50 億円超のプラットフォーム事業者を対象に、プラットフォーム事業者に消費税の納税義務を課す制度が導入されます。
  • あわせて、国外事業者により行われる事業者免税点制度や簡易課税制度を利用した租税回避を防止するため、必要な制度の見直しが行われます。

個人課税関係

(1) 事業承継税制の特例措置に係る特例承継計画の提出期限の延⾧

非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度、及び、個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、特例承継計画及び個人事業承継計画の提出期限が2 年延⾧されます。なお、適用期限は延⾧されない見込みです。

(2) 所得税・個人住民税の定額減税

令和6年分の所得税・令和6年度分の個人住民税について、納税者及び配偶者を含めた扶養親族1人につき、所得税3万円・個人住民税1万円が控除されます。ただし、納税者の合計所得金額が1,805 万円以下である場合に限られます。
なお、給与所得者については、所得税について、令和6 年6 月1 日以後最初に支給される給与等の源泉徴収税額から特別控除の額を控除し、個人住民税については、令和6 年6 月の給与支給時には特別徴収は行わず、特別控除の額を控除した後の個人住民税の額の11 分の1 の額を、同年7 月から翌年5 月まで、それぞれ給与を支給する際毎月徴収することになります。

(3) ストックオプション税制の見直し

  • 税制適格ストックオプションについて、1 年当たりの権利行使価額の限度額(改正前は1,200 万円)が、下記の会社についてそれぞれ引き上げられます。
    ・設立5 年未満の株式会社 ➡ 2,400 万円(非上場会社、上場会社)
    ・設立5 年以上20 年未満の株式会社 ➡ 3,600 万円(ただし、上場会社は上場後5 年未満の会社)
  • 権利行使により交付される株式が譲渡制限株式であること、及び、 ストックオプションを発行した会社自身により当該譲渡制限株式の管理がされることの要件を満たす場合、権利行使により交付される株式の証券会社への保管委託が不要となります。

おわりに

2024 年度税制改正では、「賃上げ促進税制の強化」「外形標準課税の適用対象法人の見直し」が比較的影響の大きい改正項目といえますが、その影響は個々の企業によって当然異なるため、まずは、「自社に影響のありそうな改正項目はあるか?」という視点で改正内容を確認し、今後公表される情報のキャッチアップに繋げていただければと思います。また、上記には記載をしていない改正項目もあるため、改正内容の大枠を確認後、次のステップとしてより詳細に改正内容を確認することをお勧めします。
なお、税制改正大綱は税制改正案の概要を示すものであり、改正の詳細は今後の法案等の公表を待つ必要があります。今後の国会の審議等により改正内容が変更される可能性もありますので、ご留意ください。

審理部 税務調査総括担当(tax-investigation@aiwa-tax.or.jp

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