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ニュースレター2025.1.27

【審理部】不服申立ての対象となる「処分」とは?

AIWA NEWS LETTER

筆者:税理士 村山 昌義

はじめに

国税通則法(以下「通則法」という。)第75 条《国税に関する処分についての不服申立て》では、国税に関する法律に基づく処分について不服がある者は、不服申立て(再調査請求や審査請求)をすることができる旨が規定されています。しかし、ここでいう「処分」には行政法特有の意味が込められており、課税庁からの働きかけ(簡易な接触)や税務調査における調査官の対応等に不満があるからといって、何でも不服申立てができるわけではありません。「不満」の申し立てではないからです。他方で、不服申立ては納税者の権利を守る手続きであるため、その手続きの概要を知っておくことはとても重要なことです。
そこで本稿では、通則法第75 条における不服申立ての対象となる「処分」とは何かを確認し、その当否と注意点を概観したいと思います。

不服申立の対象となる「処分」とは?

「処分」とは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」(※1)とされ、その典型例として、課税庁による更正処分や滞納処分等が挙げられます。
一方で、修正申告書等の提出は、納税者が自らする行為であり、課税庁による行為ではないため「処分」にはあたらず(処分性がない)、不服申立ての対象にはなりません。税務調査の終了時に修正申告書の勧奨とともに、修正申告書等を提出した場合に不服申立てをすることができない旨を説明するのはこのためです(通則法第74 条の11《調査の終了の際の手続》第3項)。
上記の更正処分と修正申告書の提出は典型例ですが、時として処分性の判断は難しく、また、「処分」に該当するものの不服申立ての対象にならない「処分」もあるため、以下では実務上頻出する論点と注意点を項目別に確認したいと思います。

  • 更正処分
    税務調査後の更正処分には増額更正処分と減額更正処分があり、いずれも「処分」に該当しますが、不服申立てにおける審理の対象になるのは増額更正処分だけになります。減額更正処分については、納税者にとって「請求の利益」がないため却下(門前払い)となります。
    したがって、課税庁が行った減額更正処分以上のさらなる減額措置を求める場合には、下記②の「更正の請求」を行う必要があります。

  • 更正の請求に対する理由なし通知
    更正の請求をした場合、課税庁から「更正の請求の理由がない旨の通知」(つまり、更正の請求を認めないということ)がされることがありますが、この理由なし通知は「処分」に該当し不服申立ての対象になります。
    なお、理由なし通知処分に係る不服申立てにおいては、納税者側に立証責任があるという点に注意が必要です。自らの主張を認めてもらうためのハードルが上がるということになります。

  • 附帯税(加算税と延滞税)
    附帯税には、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税といった加算税と延滞税とがあります。加算税の賦課決定通知は「処分」に該当し不服申立ての対象になります。特に重加算税の仮装隠蔽については、争いが非常に多くあります。
    一方、延滞税のお知らせは「処分」に該当せず、不服申立ての対象にはなりません。これは、延滞税が通則法第15 条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第7号及び同法第60 条《延滞税》第1項の各規定により、所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであり、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではないためです。

  • 源泉所得税の納税告知
    源泉所得税の納税告知は徴収処分に該当し、不服申立ての対象になります。しかし、不服申立てをすることができるのは源泉徴収義務者である支払者であり、国との間で直接法律関係が生じない受給者は不服申立てをすることはできません(※2)。
    例えば、給与所得に係る源泉徴収に関して納税告知処分がされた場合(給与課税すべきものに源泉徴収漏れがあったとき)に、その徴収処分について不服申立てができる者は給与に係る源泉徴収義務者である会社(給与の支払者)であって、会社から追加徴収を求められる役職員(給与の受給者)ではないという点に注意が必要です。

  • 徴収手続き
    個別税法により確定した納付税額が期日までに納付されない場合には、課税庁よる徴収手続きが行われます。一連の徴収手続きには、督促、差押、換価代金等の配当などがあり、④⑥も徴収手続きの一環となります。督促、差押、換価代金等の配当はいずれも「処分」に該当し不服申立ての対象になりますが、公売の通知は、それ自体が法律行為を発生させる行為ではないため「処分」に該当しません(不服審査基本通達75-1(3))。
    なお、徴収処分に関する不服申立てにおいては、先行処分である課税処分の違法性を理由として徴収処分の取消しを求めることはできないという点に注意が必要です(違法性の承継の問題)。

  • 還付金等の還付と充当・委託納付
    還付金等の還付は、納税者の権利義務その他法律上の地位を形成し、あるいはこれに具体的変動を及ぼし、又はその範囲を具体的に確定する等の効力を生じさせるものではないため「処分」には該当しません(※3)。これに対し、通則法第57 条《充当》に基づく未納税額への還付金等の充当は、公権力行使の主体である課税庁が一方的に行う行為であって、それによって国民の法律上の地位に直接影響を及ぼすものであるため「処分」に該当します(※4)。
    ところで、還付金等の充当と似たものに委託納付があります。委託納付とは、地方税法附則第9条の10《譲渡割に係る充当等の特例》の規定に基づき、還付金等が生じた場合に、納税者が課税庁に対してその受領すべき還付金等により未納の国税等の納付を委託したものとみなして、課税庁がその委託に基づき納税者が受領すべき還付金等を未納国税等に収納する手続をいいます。これは、所定の要件を充足することにより法律上当然にその委託納付に相当する額の納付があったとみなされるものであり、課税庁による公権力の行使によるものではないため「処分」には該当しません。

  • 行政指導(「確定申告書の見直し・確認について」と題する文書)
    例えば、課税庁が送付する「確定申告書の見直し・確認について」と題する文書は、納税者が提出した確定申告書について計算誤り又は記載漏れ等がないか見直しを求める行政指導を記載した文書にすぎません。
    当該文書によって納税者の権利義務その他法律上の地位を形成し、あるいはこれに具体的変動を及ぼし、又はその範囲を具体的に確定する等の効力を生じさせるわけではないため「処分」には該当しません。

  • 不作為
    不作為とは、行政庁が、法令に基づく申請に対して何らの処分もしないこといいます(行政不服審査法第3条《不作為に対する審査請求》)。税務上の申請に対しては、みなし承認の規定が設けられているケースが多く、不作為に該当するケースは多くはありませんが、例えば、上記②の更正の請求や消費税法おける課税売上割合に準ずる割合の承認申請等に対して課税庁が何の処分もしない場合、不作為に該当します。
    不作為はそもそも何もしていない状態のことですから「処分」に該当せず、通則法上の不服申立ての対象にはなりません。しかし、行政不服審査法上は審査請求の対象とされているため、不作為に対して不服がある場合には、通則法ではなく行政不服審査法に基づき審査請求を行うことになります。

  • 通則法第76 条による適用除外
    再調査審理庁(課税庁)による再調査決定や国税不服審判所による裁決もまた「処分」に該当しますが、これら再調査決定や裁決に対して再度不服申立てをすることはできません。(再調査決定に不服がある場合の審査請求は、あくまでも原処分を不服申立ての対象とするものであって、再調査決定そのものを対象とするものではありません。)
    また、犯則事件に係る処分(通告処分など)についても、不服申立ての対象にはなりません。


(※1) 最高裁昭和39 年10 月29 日第一小法廷・民集18 巻8号1809 頁
(※2) 最高裁昭和45 年12 月14 日第一小法廷判決・民集24 巻13 号2243 頁
(※3) 広島高判昭和54 年2月26 日
(※4) 最高裁平成5年10 月8日・判タ863 号133 頁

おわりに

以上、不服申立ての対象となる「処分」について実務上頻出する論点と注意点を項目別に確認してきました。日常的な課税庁との関わり合い(とりわけ税務調査)を通じて課税庁に対して不服がある場合に、何でも不服申立てを行うことができるわけではありません。
納税者としては、課税庁の行為が「処分」に該当するのか否か、「処分」に該当した場合に不服申立ての対象となるのか否かに関心を払い、日々の税務行政に関わる必要があります。行政に対する不服申立ては、裁判による権利救済の手続きに比べ簡易・迅速な手続きとなっており、その不服申立ての対象となる「処分」を理解しておくことは納税者としても大切なことではないでしょうか。

審理部 税務調査総括担当(tax-investigation@aiwa-tax.or.jp

  • 税理士/元国税審判官 尾崎 真司
  • 税理士/元国税審判官村山 昌義
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