筆者:市川 光大
現在、法人税では中小企業者等(注1)以外の法人(大法人)で国内投資(賃上げ・設備投資)に積極的な法人とそうでない法人に対し、アメとムチの税制が存在します。
アメにあたる税制の代表例は賃上げ及び投資促進税制(所得拡大促進税制の改組)です。
青色申告書を提出する大法人は、平成30 年4月1 日から平成33 年3 月31 日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者の給与について、下記①及び②の要件を満たすことで、給与増加額の15%(教育訓練費等の人材投資を増加させた場合には、20%)相当額(法人税額の20%を限度)の税額控除が認められます。
要件
①継続雇用者給与等支給額(注2)が継続雇用者比較給与等支給額(注3)よりも3%以上増加していること(賃金要件)
②国内設備投資額が減価償却費の総額の90%以上であること(設備投資要件)
大法人に対する本税制は、以前の所得拡大促進税制に設備投資要件が加わったイメージとなります。なお、以前の控除割合は10%でしたが、15%(又は20%)へ割合が増加しました。
一方、ムチにあたる税制の代表例は研究開発税制(試験研究を行った場合の税額控除制度)です。
青色申告書を提出する大法人は試験研究費の増減率に応じて、試験研究費の総額の6%から10%相当額(法人税額の25%を限度)の税額控除が認められます。
以前は青色申告書の提出さえあれば適用が可能でしたが、平成30 年4 月1 日から平成33 年3 月31 日までの間に開始する各事業年度においては、下記①又は②のいずれかの要件を満たさない限り、大法人は税額控除が適用できないことになりました。
要件
①継続雇用者給与等支給額(注2)が継続雇用者比較給与等支給額(注3)を超えること(賃金要件)
②国内設備投資額が減価償却費の総額の10%を超えること(設備投資要件)
なお、適用事業年度の所得の金額が前期の所得の金額以下の事業年度にあっては、上記の要件を満たす必要はありません。ただし、所得が拡大している状況において、賃上げや設備投資に積極的でない大法人については、今までほぼ無条件で認められていた試験研究費の税額控除が適用できないことになりました。
大法人向けのアメとムチの税制は、平成30 年度税制改正において創設されました。創設の趣旨は、大法人に対して企業収益の増加を生産性向上のための設備投資や人材投資に向かわせ、持続的な賃上げを税制から後押しするためのものと言えます。時限的な税制で経済の好循環を作り出すことができるでしょうか・・・
(注1)中小企業者等とは資本金の額又は出資金の額が1 億円以下である法人(大規模法人の子会社、一定の関連会社は除く)をいいます。※大規模法人とは、資本金の額若しくは出資金の額が1 億円超の法人等をいいます。
(注2)継続雇用者給与等支給額とは、法人の適用年度及び前事業年度の期間内の各月においてその法人の給与等の支給を受けた国内雇用者(雇用保険法の一般被保険者に限られ、一定の高年齢者を除くこととされています。)に対する適用年度の給与等の支給額をいいます。
(注3)継続雇用者比較給与等支給額とは、法人の適用年度の前事業年度の給与等の支給額をいいます。